概念データモデルの本が完成しました。
この本の執筆にあたっての想いと背景を少しだけお話しします。
長い旅のような時間でしたが、書き終えてみると改めて思うのは、
「概念データモデルは技術でありながら、人の営みに深く関わるものだ」ということです。
本のカバーには “THE ART OF DATA MODELING” と入れました。
ここでいう ART は、職人技やテクニックのことではありません。
人が想像を共有し、新しい意味を生み出していく、あの創造のプロセスそのものです。
概念データモデルを囲んで対話すると、単なる業務ルールの確認だけでなく、
そんな発想が、自然とみんなの間に芽生えていきます。
私は現場でその瞬間が生まれるのを、これまで何度も見てきました。
サイエンスで土台を共有し、
エンジニアリングで型を整えるからこそ、
人の想像力が自由に働ける余白ができる。
その余白が、組織を前へ動かすのだと思っています。
私自身、データ総研の創業者でありTHデータモデルの生みの親である椿正明博士の晩年、SPFチャートやIPFや入出力のパターン、加工データの分類などの研究をご一緒し、博士の「標準化」のやり方を間近で見てきました。
また、博士は、生涯をかけて「情報システムを工学として最高位まで確立する」ことを探求していました。
その姿勢は、私にとっても揺らがない価値観のひとつになっています。
この本では、博士の思想をただ継承するだけではなく、
「どう現場で活かすか」という視点で、現代版へと接続しました。
これらは、以前のPLAN-DBには明示されていなかったものです。
私自身が現場で何百回と合意形成に立ち会うなかで、
必ず必要になることがわかったため、体系化して盛り込みました。
私が願うのは大げさなことではありません。
この本が、
みなさまの組織やプロジェクトに、小さな変化の種をひとつでも置けたなら。
誰かの理解の速度を少しだけ速くし、
会話を円滑にし、
合意形成をスムーズにし、
データを「意味から扱う文化」を育てる一助になれたなら。
それだけで、この本を書いた価値があると思っています。