今回のテーマはDMBOK2の知識領域の1つ、「データストレージとオペレーション」です。
(そもそも“データマネジメントとは?”“DMBOK2とは?”という方は、こちらの記事『データマネジメントとは何か』もご覧ください。)
データベースの管理には高い専門性が必要です。それだけに、「専門家に任せればいい」と安易に考えられてしまいがちです。しかし、担当者に丸投げして、会社として管理をしないのは問題です。データストレージとオペレーションに関する活動が上手くいっていないと、最悪の場合システムが停止するかもしれません。言わずもがな、システム停止は事業上の損失に直結します。
そういった事態を防ぐためにも、本記事を参考に貴社のデータベース管理について見なおしてみてはいかがでしょうか。本記事では、正直言って理解するのが難しいDMBOK2の、データストレージとオペレーションの章について解釈を記載しています。特に、「どんな活動が必要なのか」「それぞれの活動がどう関連するのか」を理解しやすいようにしています。データベース管理の外観をざっくりとおさえ、社内で適切な活動が行われているか振り返ってみるといいかもしれません。
注)本記事に書かれている内容は、引用部分を除きすべて独自の解釈・主張です。弊社の知見に基づいた独自の視点で、読む人により解釈が大きく分かれるDMBOK2の内容を「こう理解すればいい」とお勧めしています。
今回想定している読者層は以下です。
本記事は、以下の方々を想定して作成しております。
データストレージとオペレーションは、DMBOK2の知識領域の中でも特にデータベースの管理に焦点を当てている領域です。
活動を一言で言うと、「データの価値を最大化するために、格納されるデータを設計し、実装し、サポートすること」です。※1
ちなみに、ここでいう「設計」とは、DMBOK2を読む限り、物理設計のことを指しています。概念設計や論理設計の話はほとんど出てきません。
活動の中では、データベースアドミニストレータ(DBA = Database Administrators)が重要な役割を果たします。
DBAは、ユーザーがデータベース利用を通して得られる価値を最大化する責任があります。データベースから得られる価値に影響がありそうな変更は全てDBAの承認のもと行われます。また、それらの変更の実装も行います。さらに、データベースの運用もDBAの仕事です。※2
以下のような目的のもとでデータストレージとオペレーションに関する活動は行われます。※3
逆に、もしデータストレージとオペレーションに関する活動が全く行われなかった場合、システムを安定して稼働させることができなくなってしまいます。事業の継続性に直結する問題であり、意識して取り組んでいく必要があります。
まず、データストレージとオペレーションに関する活動をどう進めていけばよいかを見ていきます。データストレージとオペレーションの活動として、DMBOK2では大きく2つの活動があると書かれています。
以下、それぞれの活動がどのような活動を指しているのか、解釈を書いていきます。
DBMSの選択と、それに合わせた管理の仕組みを確立させる活動を行います。
※DBMS(= Data Base Management System)
データベース機能を提供するソフトウェアのこと
データベース技術の管理では、以下のような活動を行います。※4
- データベース技術の理解(P)
- データベース技術の評価(D)
- データベース技術の理解と監視(C)
--『データマネジメント知識体系ガイド 第二版』DAMA International編著、DAMA日本支部・Metafindコンサルティング株式会社訳、日経BP社、2018
以下に、各活動の内容をどのように解釈すればいいのか書きます。
まず、データの種類や利用方法に応じて、どんなデータベースを採用するか決定します。世間にはRDBやグラフDB、ドキュメントDBなど、様々な種類のデータベースがあります。それぞれのデータベースで何ができるかを理解しておくことが重要です。
データベースの種類を選択したら、様々な要件を加味してDBMSを選択します。機能のみでなく、扱いやすさ等も加味して決める必要があります。
そして、導入するDBMSに合わせ、継続的にサービスを改善していくための体制を整えていきます。例えば、ユーザーやヘルプデスクに対する技術的トレーニングや、データベース管理に必要なプロセスの確立などを行います。
DBMSが稼働するために適切な環境を構築し、DBMSが提供する機能を活用しながらデータを管理します。前述の「データベース技術の管理」と比べて物理的な側面が強くなっています。
データベースオペレーションの管理では、以下のような活動を行います。※5
- 要件の理解(P)
- 事業継続性の計画(P)
- データベースインスタンスの実装(D)
- データベース性能の管理(C,O)
- テスト用データセットの管理(O)
- データ移行の管理(O)
--『データマネジメント知識体系ガイド 第二版』DAMA International編著、DAMA日本支部・Metafindコンサルティング株式会社訳、日経BP社、2018
これらの活動については、活動名から何を行うかのイメージはつきやすいものの、それらがどう関連するかは読み取りづらいです。活動どうしの関連については、以下のように考えることをお勧めします。
①「1. 要件の理解」「2.事業継続性の計画」でどんなデータベースが必要か決める。(ここでいう要件には、機能要件と非機能要件が両方含まれる。)
②「3. データベースインスタンスの実装」で①に沿ったDBMSを実装し、リリースする。
さて、ここまで「データベース技術の管理」「データベースオペレーションの管理」のそれぞれの活動をみていきましたが、これらの関係がDMBOK2には記載されていません。そこで、これらの活動同士の繋がりを推測しました(図1)。データベース管理活動の全体像をつかむうえで役立てて頂けたら幸いです。
以下、「データベース技術の管理」「データベースオペレーションの管理」の接点について、いくつか補足します。
「データベース技術の理解」は新しいデータベース開発のプロジェクト有無にかかわらず定常的にやっておくべき活動だと考えられます。よって、この図では、「データベース技術の理解」を「要件の理解」「事業継続性の理解」よりやや上に配置しました。特に新規の業務要件があるような場合は、開発が始まる前からしっかりと技術情報を収集しておく必要があるでしょう。
また、データベースに関する技術的トレーニングや体制作りは、データベースがリリースされる前から準備して行っておくべきです。よって、「データベース技術の理解と監視」を、「データベース性能の管理」よりもやや上に配置しています。
今回はDMBOK2のデータストレージとオペレーションの分野について簡単にまとめさせていただきました。システムに関して、「管理が属人化している」「動いている限り運用方法やパフォーマンスを見直すことはない」という企業も多いですが、本記事を参考に、貴社のデータベース管理について見なおしてみるといいかもしれません。
システムの稼働を当然のものとせず、不測の事態に備えて対策を打っておくのが良いと思われます。
注釈
※1
DMBOK2日本語版での、データストレージとオペレーションの定義は「データの価値を最大化するために、永続化されるデータを設計し、実装し、サポートすること」です。
ただし、この定義の「永続化される」の部分は「格納される」と読み替えたほうがよいと筆者は考えています。「永続化される」に対応する単語は原文では”stored”となっており、”store”の意味的にも文脈的にも、「格納される」と訳したほうがシンプルです。
※2
DBAに関して、DMBOK2日本語版では「DBAはデータベースに対して発生するすべての変更に責任がある。」と書かれています。この「変更」という部分が何を指しているのかは解釈によりますが、ITILで言う「変更」の意味を参考に考えると「データベースから得られる成果に影響を及ぼす可能性があるものを追加、修正、削除すること」だと言えそうです(正確ではないにしても、大きく外れてはないと思います)。
また、「責任」の範囲も解釈によりそうですが、そのあとの文章を読む限り、変更に関する説明責任に加え、実行責任もあると考えられます。
※3
DMBOK2日本語版では以下のように書かれています。
・データライフサイクル全体にわたるデータの可用性を管理する
・データ資産の完全性を保証する
・データ処理の性能を管理する
一般的な「可用性」「完全性」の意味や、DMBOK2に書かれている他の文章等をふまえて解釈し、言い換えました。
※4, ※5
(P) Planning: 計画
(C) Contorol: 統制
(D) Development: 開発
(O) Opelation: 運営
これらの分類は、DMBOK2の読者にとって、それぞれの活動の関係を読み取る手掛かりになります。