データ活用を推進しようとしている企業の間で「データガバナンス」が重要であるという認識が広まってきました。しかし、データガバナンスがどういうものなのか、あまりよく知らないという方も多いかと思います。本記事では、データガバナンスとは何か、データマネジメントとはどういう関係にあるかについて、データ総研の考えをご説明します。
(そもそも“データマネジメントとは?”という方は、こちらの記事『データマネジメントとは何か』もご覧ください。)
本記事は、以下の方々を想定して作成しております。
データガバナンスとは、データマネジメントの実行を全社視点で監督・サポートしていく活動のことを言います。企業の中では、基幹系システムの構築や、データ活用基盤の構築、それに伴うデータ統合、データの収集・蓄積・利活用など、様々なデータマネジメント活動が発生しています。それらを横断的に監督・サポートすることで、データマネジメントによる利益の最大化と、リスク・コストの最小化を目指します。
データガバナンスで実現したいことをまとめると、以下のようになります。
あくまで一つの考え方ですが、上記を実現するため、全社の経営戦略をもとに基本方針を策定し、データマネジメント活動に対して評価(Evaluate)、方針の指示(Direct)、監視(Monitor)を行う(図1)というのがデータガバナンスの要点だと、弊社は考えています(※)。
(※COBIT5における「ガバナンス」の考え方を参考にしています。)
また、基本方針や指示に実効性をもたせてデータマネジメント活動をスムーズに進めるため、これらの活動は経営層の強い支援のもと行われる必要があります。
ところで、一般的に「データガバナンスはデータマネジメントを統制するもの」と言われることが多いですが、データガバナンス側で、データマネジメント活動に関する全てのルールを作ろうとするとうまくいかない、と弊社は考えています。各活動に関わる部門やシステムの個別事情を熟知していない状態で細かいルールを作ろうとしても、実現性のないルールができてしまいます。
データガバナンス側では共通ガイドラインとして最低限のルールを設定し、データマネジメント側で、それぞれの個別事情を考慮した個別ガイドラインを作成するのがよいです。そのうえで、個別ガイドラインが共通ガイドラインで定められている最低限のルールを守れるようになっているかレビュし、問題なければ承認するようにします。
なお、データマネジメントの活動もマネジメント層とオペレーション層の2層に分かれます(図2)。マネジメント層は、成果物のレビュやデータ品質の測定を通じて、オペレーションが個別ガイドラインで定めたルール通り行われているかをチェックします。
図2. データガバナンスとデータマネジメントの関係の模式図
データガバナンスに対するイメージを深めるために、データガバナンスがないことで起こる問題の例を見てみましょう。
データガバナンスがなく、事業部門ごとにデータマートを作成していると、似たようなデータマートが多くできてしまうことがあります。
さらに、それらの間で不整合があったり、更新されていないデータマートがあったりすると、ユーザーとしてはどれを使用してよいかわからなくなり、うまくデータ活用が進まなくなります。
また、似たようなデータマートをそれぞれ開発・維持することになるため、無駄なコストがかかってしまいます。
本来は、全社でアクセス権限付与や削除に関する標準的なルールを定め、それが守られるようにしたいところです。
しかし、システムや部門ごとで独自にルール設計をしてしまうと、最低限の部分も守られていないようなルールができるおそれがあります。
MDM(マスターデータマネジメント)を行うと、全社標準のデータが作られます。新たにシステム開発を行うときは、パッケージの制約などの事情がない限り、できる限り標準形式のデータを設計・実装したいところです。そうすれば、データ連携時の変換仕様の設計・実装や、変換表のメンテナンス工数などの、無駄なコストをかけずに済みます。
しかし、データの設計・実装を開発現場任せにしていると、標準と異なる形式のデータが作られてしまいます。
データレイク・DWHのデータに誤りや欠損などがなく、データ活用に使える(≒ データ品質が高い)状態かどうかは、データ収集元システムのデータの状態に大きく左右されます。外部から取得するデータに関してはコントロールできませんが、社内で発生するデータについては、正しく・漏れなくデータ登録をしてもらう必要があります。
しかし、入力する項目が現場の業務に必要ないものであった(分析にしか使わない)場合、ユーザーがしっかりと入力してくれないことがあります。
このときデータガバナンスが不十分で、データの値を担保する責任者(データオーナー)が決まっていない・ユーザーに対して登録を依頼できる業務権限をもっている人がいない、という状況だった場合、なかなか改善が難しくなってしまいます。
※データ品質・・・データの信頼性を測定するための指標。データクオリティともいう。正確性、整合性、適時性など、様々な観点に基づき定量的に測定する。データの利用目的に応じ、どのような指標を設定するか、各指標においてどのくらいの値を目標とするか等を決める必要がある。
ここでは、データガバナンスを一から立ち上げる時に、どのようなステップを踏めばよいのか簡単にご紹介します。
まず、これからどのようなデータマネジメントの活動(データマネジメント施策)を行うのかを考えます。経営戦略や事業方針、データに関する法規制などを勘案したうえで、どのような活動が必要かを洗い出します。
また、目指すべき姿としてエンタープライズデータモデルと、データアーキテクチャを描きます。
データガバナンスを担う組織と、データマネジメントを実行する組織を分けて配置します。また、その中で必要な役割を定義します。
(役割の定義にあたってはこちらの記事が参考になります。『DXにおけるデータマネジメント組織づくり』)
なお、データガバナンス組織がうまく機能するには、業務部門に対して改善を依頼できるような権限が必要です。トップに経営役員を据える、経営層の直下に配置するなど、どうすれば権限を持てるのかも含めて検討しましょう。
共通ガイドラインとして、データマネジメント施策を実行するうえで守るべきルールや、成果物作成時のひな型を作成します。必要最低限でシンプルなものとするのがポイントです。
共通ガイドラインは、各データマネジメント組織側で個別事情を考慮の上、個別ガイドラインとして詳細化するようにしましょう。
2で設計した組織の各役割に人をアサインし、データガバナンスを開始します。
まずは、各データマネジメント組織で作成された個別ガイドラインをレビュし、共通ガイドラインの内容が盛り込まれているかを確認します。
その後は、データマネジメントの活動状況や発生した問題に関する報告を受け、状況に応じて対応方針を伝えます。
今回はデータガバナンスについて、データ総研の考え方をご紹介しました。これからデータガバナンスを行おうとする皆様の参考になれば幸いです。データ総研では、データガバナンスに関するウェビナーを開催しています。データガバナンスについて詳しく知りたいことがあれば、是非ご参加ください。また、データ総研ではデータマネジメント・データガバナンスの書籍『DXを成功に導くデータマネジメント データ資産価値向上と問題解決のための実務プロセス75』も出版しております。ぜひご一読ください。
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