各部門が独自システムを構築し、データ連携が困難な状況を変革。ひとつひとつの「言葉」を再定義するなど、丁寧な支援で積年の課題解決へ。

    2府16県の鉄道ネットワークを支える設備メンテナンスの最適化を目指して。

    西日本旅客鉄道株式会社

    業種

    キーワード

    JR西日本様

    「鉄道DX」を推進し、「DX注目企業2025」にも選定されるなど注目を集めているJR西日本。同社では、全社的なデータ活用を支える「データの民主化」の実現に向けて、マスターデータマネジメントに本格的に着手しました。これまで何度も挑戦しながらも頓挫してきたマスターデータの取り組みを、いかにして着実に前進させたのか――。プロジェクトを推進する西日本旅客鉄道株式会社 鉄道本部 イノベーション本部 鉄道DX部の真嵜弘行様、三輪田康志様、藤村勇斗様、茨木美玖様と、支援を行った株式会社データ総研の伊藤洋一、菅野孝幸、久世千寿宝、山本杏菜の各コンサルタントにお話を伺いました。※記事中の所属・役職名は取材当時(2025年3月)のものです。

    課題

    • 鉄道DXを推進するため、データを社内でいつでも誰でも使える「データの民主化」が求められている。

    • 部門ごとにシステムを構築しており、横串でのデータ連携ができていなかった。

    • たとえば「駅」の定義が各部門で異なるなど、マスターデータマネジメントを実施したくても困難な状況にあり、これまで何度も同様の取り組みをして頓挫してきた。

    解決策

    • まず「なぜマスターデータマネジメントが必要なのか」を明確化するため、ビジネス課題を整理。それぞれの課題を深堀りしてどのようなデータが必要なのか、マネジメントのプロセスはどうあるべきか、ルールをどう規定するかを決めていった。

    • 「駅」など社内で使われる用語をひとつひとつ再定義し、社内に展開する際には、データ活用の基盤として機能するよう整備した。

    • 様々なサービスを横断したデータ活用で、よりよい提案を目指す

    効果

    • 今まで深堀りできていなかったビジネス課題を全社で共有するきっかけになった。

    • 長年実現できなかった社内横断型のデータ連携の糸口が見え、各部門でデータ連携の必要性の認識合わせができるようになった。

    • 業務プロセスの変革のみならず、組織変革や人材育成といった次のステップが見えてきた。

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    横断的かつスピーディな「鉄道DX」のため、「データの民主化」の実現へ

    ——JR西日本の直近の取り組みについてお聞かせください。

    真嵜様:
    当社は、1987年に国鉄分割民営化によって発足しました。「人、まち、社会のつながりを進化させ、心を動かす。未来を動かす。」を志とし、近畿・北陸・中国地方の在来線と、山陽新幹線および北陸新幹線の鉄道事業を運営する地域密着型の企業です。

    現在、「JR西日本グループ長期ビジョン2032・中期経営計画2025」を掲げています。人口減少や高齢化、自然災害の激甚化、地球環境保全といった複雑な社会課題へ、新たな技術で対応しながら企業価値を高めていくことを目指しています。

    新たな技術というのは、自社にとどまりません。オープンイノベーションで外部の技術や価値観を積極的に取り入れ、持続可能で魅力的な鉄道交通サービスを提供していきたいと考えています。

    JR西日本_真嵜様
    西日本旅客鉄道株式会社 鉄道本部 イノベーション本部 鉄道DX部 部長 真嵜 弘行 様

    ——「鉄道DX部」は2024年6月に発足したと聞いております。発足の背景には何があったのでしょうか。

    真嵜様:
    大きかったのは、2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大です。当社の事業に甚大な影響を及ぼし、将来の見通しも不透明になるなど非常に厳しい局面を迎えました。そこで、2020年10月に、全てのモビリティや生活サービスとお客様、従業員をデジタルでつなげるエコシステムの構築を目指し、「JR西日本グループデジタル戦略」を策定しました。

    この「JR西日本グループデジタル戦略」は、「顧客体験」「鉄道システム」「従業員体験」の3つを再構築することを目指しています。そのためには、社内およびグループで横断的かつスピーディにDXの推進をしなければなりませんので、部門横断型の組織として「鉄道DX部」を発足しました。

    伊藤:
    2025年4月には「DX銘柄2025」(※)で「DX注目企業2025」に選定されるなど、すでにJR西日本様の「鉄道DX」は注目を集めています。
    ※DX銘柄(デジタルトランスフォーメーション銘柄)とは、東京証券取引所に上場している企業の中から、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を選定するもの。経済産業省と東京証券取引所、情報処理推進機構が共同で選定している。

    真嵜様:
    「鉄道DX」というのは当社の造語です。「鉄道事業を将来にわたって持続的に運営するために、デジタル技術とデータ活用によって変革し、環境変化に対応し続けること」と定義しています。推進エンジンとして位置付けているのは、「業務変革」「新技術の活用」「基盤づくり」の3つです。まずは「基盤づくり」を行うため、データを社内の誰もがいつでも使える「データの民主化」を実現させたいと考えています。

    課題に寄り添い、アジャイルに方針をすり合わせる親身な姿勢が選定の決め手

    ——DXの基盤づくりとなると、一般的にはシステムの構築を先行させがちです。「データの民主化」に着目したのはなぜでしょうか。

    藤村様:
    当社は従来、運輸、車両、施設(土木、建築、駅機械システム)、電気といった「系統」ごとにシステムを構築していました。それぞれ、別々のマスターデータ(社員や顧客、商品、設備などの基礎情報)で構築されていたので、データ連携ができない状態だったのです。データ連携を実現させないことには、グループ内で横断的かつスピーディな業務変革を成し遂げることができませんので、まずは「データの民主化」が急務だと考えました。

    「データの民主化」を実現するには、マスターデータを統合して品質を維持するマスターデータマネジメント(MDM)を行わなければなりません。しかし、当社にはデータマネジメントの知見がほとんどありませんでしたので、外部パートナーの支援を受けようと考えました。取引先のベンダーを通じてデータマネジメントのコンサルティング会社を複数社紹介してもらったうちの1社がデータ総研さんでした。

    JR西日本_藤村様
    西日本旅客鉄道株式会社 鉄道本部 イノベーション本部 鉄道DX部 DX基盤 藤村 勇斗 様

    ——データ総研にご依頼をされた決め手は何だったのでしょうか?

    藤村様:
    ご提案いただいた内容が、当社の考え方に最もフィットしていたというのが最大の決め手となりました。ご提案をいただく前にヒアリングを受けたのですが、非常に巧みなファシリテーションで当社の課題を丁寧に抽出しながら、どういった方針で「データの民主化」を実現させていくか、アジャイルにすり合わせる柔軟なスタンスが、強く印象に残っています。

    伊藤:
    さまざまな意見交換をする中で、いきなりマスターデータマネジメントのアーキテクチャを検討するよりも、「マスターデータマネジメントを行う目的」を明確化したうえで、ビジネス課題を可視化し、業務や組織のあり方を見直そうというお話になったように記憶しています。

    藤村様:
    マスターデータマネジメントの進め方という点では、他のコンサルティング会社もデータ総研さんと同水準の提案をいただきました。でもデータ総研さんは、より親身に、当社の課題をともに見据えて長期間伴走いただけると感じました。

    鉄道業務はかなり特殊ですので、系統別の業務内容や組織文化を理解するのは決して簡単ではありません。ご支援いただくには、業務理解をしっかりしていただくことも重要ですので、長期間にわたって何名ものコンサルタントでチームを組んで対応するとご提案いただいたことも、データ総研さんに決めた理由です。

    ビジネス課題を丁寧に深堀りすることで、必要な取り組みを的確に抽出

    ——プロジェクトはどのように進めていったのでしょうか。

    伊藤:
    どんな変革プロジェクトでも、重要なのは「Why」と「What」を明確にすることです。この両輪がそろうと方向性が固まりますので、自ずと変革の実行にあたる「How」をどのように打っていくか導き出せます。JR西日本様のプロジェクトでは、「Why」はビジネス課題、「What」はマスターデータとなる言葉の定義と位置付け、それぞれの明確化に取り組みました。

    データ総研_伊藤
    株式会社データ総研 エグゼクティブシニアコンサルタント 伊藤 洋一

    藤村様:
    ビジネス課題の洗い出しに先立ち、先ほど伊藤さんが話されていたように、まずは「なぜマスターデータマネジメントを行うのか」を明確にしていきました。そうすると、自ずと各系統のビジネス課題が浮き彫りになっていきます。

    たとえば鉄道設備は、線路やトンネル、駅舎のほか信号など数え切れないほどたくさんあります。メンテナンスをするにしても、今後人手不足になると従来の方法では間に合いませんので、どう最適化するかを検討していく必要があります。

    山本:
    そうやって、課題の原因を突き止め、それを放置するとどんなリスクがあるかを整理し、課題解決にはどんなデータが必要で、どのようなプロセスやルールを構築しなければならないかを深堀りしていきました。

    データ総研山本-1
    株式会社データ総研 コンサルタント 山本 杏菜

    藤村様:
    ひとつひとつそうやって深堀りしていくことによって、「なぜこの取り組みをする必要があるのか」と問われてもすぐ答えられるため、プロジェクトが途切れるのを防げることがわかりました。また、これまで当社では深堀りしきれなかったり、そもそも課題と捉えきれていなかったりした課題を、他で走っているデータ駆動型経営に向けたプロジェクトでも共有できています。当社の鉄道DX推進のスピードを後押しする取り組みとして非常に有効だと個人的に思っているところです。

    ひとつひとつの言葉を再定義することが、データリテラシーを磨くきっかけにも

    ——「What」にあたるマスターデータの定義については、どのように進めたのでしょうか。

    伊藤:
    マスターデータは「決める」ものです。どんな業務を行い、どのような情報が重要なのかを洗い出し、どのような目的で使うかを決めていかなくてはなりません。つまり、全社の標準として、どんな定義かを決める必要があります。JR西日本様の場合、非常に興味深かったのは「駅」の定義にいくつものバリエーションがあるとわかったことです。

    菅野:
    土木系統だと物理的なプラットフォームを「駅」とみなしているのに対して、運輸系統だとダイヤ(ダイヤグラム、列車運行図表)を決める業務を行いますので、それに加えて分岐点のような仮想的なポイントも「駅」として管理しています。そのため、系統によるニュアンスの違いを整理していくことから始めました。

    データ総研菅野
    株式会社データ総研 コンサルタント 菅野 孝幸

    久世:
    そうやって整理したうえで、「こういう場合は駅とみなすのか、みなさないのか」といった仮説をいくつも立てて、鉄道DX部のみなさまにご確認いただくようにしました。具体的なマスターデータをもとにそういった議論を繰り返したことで、データマネジメントの考え方をご理解いただけるようになったのではないかと思っています。

    データ総研久世
    株式会社データ総研 コンサルタント 久世 千寿宝

    茨木様:
    社内で用いる言葉の定義は規定されています。ところが、データ総研さんとのプロジェクトで細かく見ていったことで、実は系統によって全く違う意味で使っていることがわかり、今まで当たり前に使っていた言葉やデータの意味を考えるきっかけになりました。

    JR西日本_茨木様
    西日本旅客鉄道株式会社 鉄道本部 イノベーション本部 鉄道DX部 DX基盤 茨木 美玖 様

    藤村様:
    こうした取り組み自体が、私たちのデータリテラシーを磨くことにつながっていると実感していますし、マスターデータで用いられるようなよく使う言葉を再定義し、社内に展開することがデータ活用の促進にもつながると期待しています。

    それに、系統や部門間だけでなく、支社や各エリアでも使われる言葉の意味が少しずつ違うので、こうした取り組みはグループ内のコミュニケーションコストを削減し、業務効率化につながるのではないかと思っています。

    データ活用のトップリーダーとなり、さらなる生活のクオリティ向上に貢献したい

    ――今回のプロジェクトの成果と、今後の展望をお聞かせください。
    三輪田様:
    当社にとってマスターデータの統合は、これまで何度もチャレンジしながら乗り越えられなかった壁なんです。それは、社内だけで進めようとしたり、データ総研さんのようにしっかり伴走支援してくださるパートナーに出会えなかったりしたことが原因だと思っています。

    実際、プロジェクトを俯瞰すると、一見遠回りをしているかのように、ひとつひとつやるべきことをクリアしてきています。外から見ると、「そこまでやらないとマスターデータの統合はできないのか」と感じてしまうのではないかと思います。裏を返すと、今まででは考えられないほど大きな一歩を踏み出したのではないかと見ています。

    先日、データ総研さんとご一緒に各系統とマスターデータマネジメントの実施に向けた意思疎通を図りましたが、わずかであっても全社が動き出せるようになったのは大きな成果だと感じています。

    茨木様:
    他の系統とデータ連携させたいというニーズは今までもあったと思います。でも、それをしようとすると手作業でデータの移し替えをしたり、つなぎこみをしたりしなければなりませんから、やりたくてもあきらめていた部分はあったはずです。

    鉄道の安全性を向上させるうえで設備のメンテナンスは欠かせませんが、よりその精度を高めようとしたら、必ずマスターデータマネジメントの問題に直面します。当社として必ず取り組まなければならないことだと改めて確認できました。

    藤村様:
    系統によってリアクションは異なりましたが、マスターデータマネジメントの目的は理解してもらえたと思います。今後は、IT部門とも連携し、データマネジメントの考え方を浸透させてデータマネジメントができる人材の育成にも取り組んでいきたいと考えています。

    真嵜様:
    「基盤づくり」と最初に申し上げましたが、マスターデータマネジメントは、いわば一軒ずつ井戸を掘るのではなく、水道管を敷設して全員が等しく水の恩恵が受けられる環境を整えることだと思っています。そうすれば、後からその町に入ってきても、蛇口さえつければいいわけです。「データの民主化」もそういうことだと思っていますし、当社グループ全体がいつでも活用できるようにしたいと思っています。

    伊藤:
    インフラを手がけているJR西日本様ならではの言葉だと思います。「マスターデータマネジメントをしても売上増に貢献しない」と思われることも多いのですが、真嵜様がおっしゃるとおり、データベースは企業にとってのインフラですね。それがあるからこそ、売上向上の戦略構築や具体的な施策を実行に移すこともできるのではないでしょうか。

    MDMの進め方

    藤村様:
    まさにそのとおりだと思いますので、インフラ整備とともに、データ活用の文化を醸成するためぜひ今後もデータ総研さんには支援いただきたいですね。また、基幹システムの統合化といった大規模プロジェクトも進めていますので、マスターデータマネジメントを進めるとともに、データモデルの描き方といった知見もご提供いただけたらと思っています。

    真嵜様:
    ご一緒に取り組んで、データ総研さんはデータマネジメントのトップリーダーだと実感しています。そのご支援をいただいている当社も、データ活用でトップリーダーとなり、お客様の生活のクオリティ向上に貢献したいと強く思っているところです。そのためのご支援をぜひ引き続きお願いします。

    伊藤:
    ありがとうございます。今後も、同じJR西日本の社員になったつもりで、ひとつひとつの課題に寄り添い、解決に向けて全力で取り組んでまいります。今後とも、よろしくお願いいたします。

    インタビュー風景

    企業データ

    会社名:西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)

    代表者:代表取締役社長 長谷川 一明 

    設立:1987年4月1日

    事業内容:

    モビリティ業/流通業/不動産業/旅行・地域ソリューション業/その他

    URL:https://www.westjr.co.jp/

    企業概要: 

    2府16県に跨る広大な鉄道ネットワークや約1200もの「駅」という拠点を活かし、鉄道・交通、物販・飲食、ホテルなどのモビリティサービス事業や不動産、地域・まちづくり、デジタル戦略などを展開。社員数は44,366人(連結、2024年4月1日現在)。

    関連情報

    データモデリングスタンダードコース【入門編】

    コース概要

    ジール様でご導入いただいているデータモデリングスタンダードコース【入門編】は、データマネジメントの実践に欠かせないコアスキルである「データモデリング」の基礎を学びます。洗練された方法論に基づく学習プログラムに仕上げているため、初学者でも技術習得が容易な内容となっています。
    詳細はこちら
    https://jp.drinet.co.jp/school/standard-entry

    プログラム

    ・データ活用概論
     データ活用の方法の講義

    ・演習1:仮説を立ててみる
     仮説検証型アプローチの演習

    ・演習2:データモデルで表現してみる
     演習1で考えた内容をデータモデルで表現する演習

    ・まとめ
     データ活用・データマネジメントの関係の解説、講義の振り返り

    データ活用ワークショップ図
    データを活用した業務改善のあるべき姿