2009年冬 第24回データベース特別研究会

〜システム開発の動向と2008年の総括〜

事例に学ぶこれからのシステム保守

-保守コストダウン実現とナレッジ継承-

2009年度冬季特別開催セミナー:終了報告

2009年2月5日(木)、アイビーホール青学会館にて毎年恒例の「冬期特別開催セミナー」を開催し、好評のうちに閉幕いたしました。今回は定員を上回るお申込みをいただき、急遽座席を増設しての開催となりました。

終日満席の会場では各講演ごとに活発な質疑も飛び交い、ご参加された皆様の並々ならぬ意気込みを感じました。

セミナー終了後の情報交換会にも多数ご参加いただき、皆様には有意義なお時間を過ごしていただけたようです。

セミナー内容

【第1部】第24回データベース特別研究会〜システム開発の動向と2008年の総括〜

株式会社データ総研
椿 正明

現在のシステム開発の動向について、いくつかのトピックを取り上げて解説した。

  • ERPの導入による基幹業務の統合が進み、業務が効率化されている反面、保守量の増加が問題になっている。
  • CRMの真価を発揮させるためには、導入後にどう活用するかが鍵である。
  • SCMの普及は落ち着いたのかトピックは少ない。そんな中、在庫1/100を達成した事例が出てきた。
  • ICタグの普及は滞っているが、トレーサビリティ管理や生鮮水産品の鮮度管理、子供の登下校の様子を確認するなど、応用局面が多様化してきている。
  • BIはいまや経営層だけのためのものではない。パートナーや従業員などが自身の問題解決のために活用できるものになってきている。
  • ビジネスの迅速化や効率化を実現するためにはBPMが有効だという声が高まってきている。
  • 欧米には劣るが、日本でもSOAの導入が進んでいる。ブレイクスルーの鍵はデータアーキテクチャの最適化である。
  • MDMに注目が集まっているのは、システムにおけるデータの重要性が再確認された結果である。
  • メタデータは企業のDNAである。メタデータ管理の重要性を理解すべきで、管理するのはユーザであるべきである。
  • 仮想化は管理効率の向上やコスト削減に有効である。ただし闇雲に導入すればよいというわけではない。
  • SaaS化の波は業種を問わず広がり続けている。開発環境自体をサービス提供するPaaS、インフラをサービス提供するIaaSも登場している。
  • クラウドコンピューティングは次世代のシステム情報基盤となり得るものだが、その定義はまだ曖昧な状態である。

【第2部】事例に学ぶこれからのシステム保守 -保守コストダウン実現とナレッジ継承-
1. システム保守の見える化と課題 〜JUASソフトウエアメトリックス調査2008より〜

社団法人日本情報システム・ユーザー協会
細川 泰秀 様

幅広い視点から、保守の実態や保守改善のための方策について説明した。

  • システム保守というとバグ修正や環境変化への対応が中心と思われるかもしれないが、実は問い合わせ対応の割合が高い。
  • システムバグへの対応とユーザー要望への対応を抑えることが、保守作業を抑えるための中心施策となる。
  • 保守作業の見積方式は未成熟である。
  • 保守は「ふたこぶラクダ」とよく言われるが、日本においてはそうなっていない事実が伺える。
  • 開発者から保守者への引継ぎは十分とは言えないが、開発レビューに参画するなど良い対策を打っている回答もある。
  • 保守者のモチベーション向上策には、目標管理や表彰制度が活用されている。研究テーマを与えて一定期間ごとに報告させる事例もあるようだ。
  • 約7割のシステム障害は運用保守フェーズに起因している。開発だけに着目していてはシステム障害は減らない。
  • JUASでは非機能要求に「障害抑制性」と「効果性」のユーザ視点を追加している。運用保守を含めてソフトウェアの品質を測るにはこの視点が非常に重要である。

2. 株式会社クレハでのR/3の導入とその後の運用について

株式会社クレハ
小野 陽造 様

ERP導入後のシステム運用におけるITILの活用方法について説明した。

  • ERPを導入し、システム基盤を統一したことにより、運用の適正人員の絶対数を減らすことができた。
  • ITILの導入意義は、これまでに行ってきた運用を体系化・可視化したことにある。
  • ITILはあくまでもフレームワークである。ITILの基本的な考え方を理解し、それに沿って運用現場のノウハウを整理することが重要である。
  • ITILの適用が目的ではない。システム運用上の課題解決が目的である。

3. リポジトリを利用した保守の実際

株式会社丹青ビジネス
小川 清流 様

システム保守におけるリポジトリ活用の特長と利点、そして今後の課題について説明した。

  • リポジトリに登録された定義情報からプログラムを自動生成することで、製造効率の向上や品質の均一化が実現された。
  • システムのバグはリポジトリの定義情報の誤りにより起こるため、原因の特定が容易になった。
  • リポジトリにはシステムの最新の構成情報が管理されているため、システム変更時の影響範囲特定が容易に可能となった。
  • 保守という考え方自身が希薄であり、実際は月1回リポジトリを基に、システム全体をリビルドしている。
  • 今後リポジトリには、プロジェクト管理やITサービス管理に係わるエンティティの追加が必要である。

4. 配電総合管理システムにおける保守業務改善のこころみ

東京電力株式会社 伊部 政弘 様
株式会社テプコシステムズ 大島 敦 様

日々のシステム保守を通じて見えてきた課題と解決のための施策について説明した。

  • 大きな課題として、システム構造が可視化されていないこと/業務知識不足/即戦力メンバの育成方法の3つが挙げられる。
  • システム全体の俯瞰を可能にするために、保守ドキュメントの体系整備に着手している。
  • ユーザ部門の協力を得て業務研修会を実施したり、現場見学によりシステム利用の現場を肌で感じることで業務知識の向上・浸透を図っている。
  • 若手には実装経験を積む機会を提供し、システム基礎知識の習得をねらっている。

5. 保守再構築

株式会社リクルート
木村 茂史 様

Neo-ARKシステムの保守を通して見えてきた問題点と、解決へのアプローチについて説明した。

  • 保守とは、変化していく事象に追従することであり、その価値は時間とともに変化していく。
  • システム仕様の継承がなされていなかった。仕様書や概念モデルを作成し、システムを可視化する方策を採っている。
  • アウトソーシングに傾倒した結果、自社要員のスキルが低下してしまった。概念モデルを自社要員中心で作成するなど、人の育成に力を注いでいる。
  • 情報システム部門の価値を再定義し、それを共有することで、保守要員のマインドを変えていくことを狙っている。

6. 保守プロセス改善のポイントと方向性 〜ご発表いただいた事例をもとに〜

株式会社データ総研
堀越 雅朗

今回のセミナーの内容を概観し、システム保守における問題・課題と改善のポイントについて説明した。

  • 保守における最大の課題はナレッジの共有方法である。
  • 保守に最適化したドキュメント標準の構築も重要課題である。
  • 保守に必要なナレッジは「業務知識」「システム知識」「過去経緯の知識」であり、データモデルを使い可視化することが有効である。
  • 必要なナレッジはリポジトリに格納し、システムライフサイクル全般で活用すべきである。

プログラム


  【第1部】第24回 データベース特別研究会 -システム開発の動向と2008年の総括-
9:30〜9:40 セミナー開会のあいさつ
9:40〜10:45

システム開発の動向と2008年の総括

(株)データ総研 DRIフェロー
椿 正明 -Masaaki Tsubaki-

わが国の意味論データモデル研究者の草分け。1985年(株)データ総研を創設。PLAN-DBを中心としたDOAコンサルティングを展開。主著に「データ中心システム入門」「データ中心システムの概念データモデル」「データ中心アプローチによる情報システムの構築」、「名人椿正明が教える〜」シリーズとして、2005年に「データモデリングの技」を出版。2006年に「システム分析・モデリング100の処方箋」、「帳票分析50のケーススタディ」を出版。工学博士。

  • MDM、SOAによる部品化のレベルアップ
  • バランスよく各種部品を活用するためのBPP/AIA/PaaSなどのプラットフォーム
  • 実装・運用をアウトソースするためのSaaS
11:00〜12:00
  • 実装・運用をアウトソースするためのSaaS
  • ユーザ企業とアウトソーサーの分担を明確にする要件定義、SLA、工事進行基準
12:00〜13:00

昼食

  【第2部】事例に学ぶこれからのシステム保守 -保守コストダウン実現とナレッジ継承-
13:00〜14:00

1. システム保守の見える化と課題 〜JUASソフトウエアメトリックス調査2008より〜

(社)日本情報システム・ユーザー協会 専務理事
細川 泰秀 -Yasuhide Hosokawa-

1960年富士製鐵(株)(現、新日本製鐵)入社。同社情報システム部、NS&Iシステムサービス(株)副社長、新日鉄情報通信システム(株)(現新日鉄ソリューションズ)を経て、2001年(社)日本情報システム・ユーザー協会 常務理事に着任。2002年5月より専務理事、現在に至る。
ユーザーとベンダーの両方を経験した立場を生かし、業界への問題提起や資料の提示など精力的に活動している。

  • システム保守の実態と課題
  • システム保守における品質・効率向上の対応策
  • 重要インフラ・システムの保守・運用の重要性と共通対策
14:00〜14:40

2. 株式会社クレハでのR/3の導入とその後の運用について

(株)クレハ 情報システム部
小野 陽造 -Yozo Ono-

1969年(株)クレハ入社。技術部で計装設計を担当。1982年情報システム部でホストの開発に従事。1986年PLAN-DBをベースとしたディクショナリシステムを構築し、全社データベース統合を行なうとともに、基幹システムの再構築を行なう。2000年クレハへのERP導入プロジェクトを統括し、2002年にサービスを開始する。
2004年国内グループ会社11社への横展開を行い、ERP導入を行なう。

  • R/3導入の概要
  • R/3運用の実態
  • ITILによる運用管理について
14:55〜15:35

3. リポジトリを利用した保守の実際

(株)丹青ビジネス 運用管理部 IT資源管理課長
小川 清流 -Kiyoharu Ogawa-

1992年(株)丹青ビジネス入社から、運用管理に関する業務を幅広く担当。現在、メインフレームで構築された自社CASEツールのオープン化を担当。

  • 弊社の保守の実態
  • リポジトリを利用した保守
  • 弊社リポジトリ(IRM)の構成
  • IRMの特徴と利点
15:35〜16:15

4. 配電総合管理システムにおける保守業務改善のこころみ

東京電力(株) システム企画部 新配電システムプロジェクトグループ
伊部 政弘 -Masahiro Ibe-

1993年東京電力(株)入社。1994年2月、本店情報システム部に配属。同年7月、本店システム企画部にてアプリケーション開発や移行業務を坦務。2001年システム企画部システム開発センター機能のアウトソーシングに伴い、東電ソフトウェア(現テプコシステムズ)へ出向。
2007年出向解除に伴い、本店システム企画部新配電システムPGに異動。現在に至る。

  • テストパターンの継続的活用等によるノウハウ継承と品質維持
  • 電子レビュー導入による生産性の向上
  • 保守用ドキュメントの電子化による検索性の向上
16:30〜17:10

5. 保守再構築

(株)リクルート FIT1部 HRビジネスシステムグループ ITプロデューサー
木村 茂史 -Shigefumi Kimura-

1989年株式会社リクルート入社。汎用機ベースの勘定系システム構築プロジェクトで、インフラ設計、標準化、共通機能の構築、DWHの構築に携わり、1994年C/O後の保守フェーズではDAの役割を担う。2000年〜汎用機系システムのフルアウトソーシングに伴い、CSSでのSFA/CRMシステムの構築を担当。
今期から勘定系システムの担当に復帰し、保守体制の強化に取り組んでいる。

  • どうして再構築をしようとしているのか?
  • 価値を生み続ける保守とは何か? そのために何が必要なのか?
17:10〜17:50

6. 保守プロセス改善のポイントと方向性 〜ご発表いただいた事例をもとに〜

(株)データ総研 取締役
堀越 雅朗 -Masaaki Horikoshi-

2002年7月まで大手情報処理会社に勤務。 情報戦略立案新規・保守・運用の設計・開発からプロジェクトマネジメントまでを幅広く担当。1991年からDOAによる基幹系開発、DWH構築などデータを中心にした活動を展開。現在、(株)データ総研の取締役として、システム企画や保守プロセス改善のコンサルティングおよび商品企画などを担当。情報処理試験委員。

  • 保守課題・解決策の分類
  • 保守プロセスの改善ポイント
  • データ総研の提供する解決策
17:50〜18:00 全体質疑応答、セミナー閉会のあいさつ
18:00〜19:30 情報交換会 ※別室にて軽食とお飲物をご用意しております。

開催概要

名称 2009年冬 第24回データベース特別研究会
〜システム開発の動向と2008年の総括〜
事例に学ぶこれからのシステム保守-保守コストダウン実現とナレッジ継承-
会期 2009年2月5日(木)
会場 アイビーホール青学会館

【第1部】第24回 データベース特別研究会 -システム開発の動向と2008年の総括-

今年で24回目となる「データベース特別研究会」は、DRIフェロー 椿正明が、日頃から目を通している国内外約400もの文献を整理し、情報システムに関するトレンドを独自の視点で発表いたします。
今回も、椿正明が2008年の動向・今後の展望について熱く語ります。

SCM、グローバル化など、システム・スコープは拡大しますが、統合は不可欠です。
そこで今年は、次のような、統合にかかわる話題が活発に議論されました。

  1. MDM、SOAによる部品化のレベルアップ
  2. バランスよく各種部品を活用するためのBPP/AIA/PaaSなどのプラットフォーム
  3. ユーザ企業が、指向すべきビジネスに責任を持つための人材育成
  4. 実装・運用をアウトソースするためのSaaS
  5. ユーザ企業とアウトソーサーの分担を明確にする要件定義、SLA、工事進行基準

【第2部】事例に学ぶこれからのシステム保守 -保守コストダウン実現とナレッジ継承-

今の企業にとって情報システムは業務プロセスを支える重要なものです。
システムが停止すると業務が遂行できないなど企業の存続にもかかわる大きな問題になります。このため、システム保守は、事業を支える重要な業務であるということができます。

ところが、システム保守は、多くの場合、要員のローテーションが難しく、属人性の高い職人芸的な領域になってしまっています。新規システム開発は、技術が進歩し、様々なツールやフレームワークの登場によって生産性は格段に向上しています。しかし、システム保守では技術の進歩があまり見られず、徒弟制度的な要員育成に頼っているというのが実態なのでしょう。このような状況では、2012年問題への対応もできません。
また、保守すべきシステムが増えれば増えただけコストが増加し、そのコストは減ることがないように思えます。

一方、サブプライム問題に端を発する現在の状況では、IT投資抑制はすべての企業の緊急課題でしょう。多くの調査で保守コストがITコスト全体の70〜80%を占めることが報告されています。保守プロセスを改善できれば、大きな見返りが期待できるはずなのです。

本セミナーでは、「事例に学ぶこれからのシステム保守」をテーマに、JUAS様に保守の実態を、クレハ様、丹青ビジネス様、東京電力様、リクルート様には保守の実態と改善への取り組みをご発表いただき、保守のコストダウンや効率化、ナレッジの継承について、みなさんと共に考えたいと思っております。

  • 世の中のシステム保守の実態はどうなっているのか
  • システム保守プロセス改善のために何をすべきか
  • システム保守のどこに改善の余地があるのか

こんな方にお薦め

  • 情報システム部門の管理者や企画部門の方
  • 情報システム改革に携われている方
  • システム保守のあり方に問題意識をお持ちの方

※本ページに掲載されている所属、役職等は開催当時のものとなります。