はじめに
以前弊社では「データ活用企画の進め方」と題して、情報要求の引き出し方(トップダウン・ボトムアップ双方)を体感頂く教育セミナを開催していましたが、受講者のアンケートには「データ活用の指標をどう設定すべきか知りたい」という、より具体的な要件に直結する要望が多く書かれていたと記憶しています。
そこで、本記事では以下の手順で企業におけるデータ活用の指標を導き出す試行を行ないます。
- 全世界的な目標である「SDGs」を指標の最上位に置きます。
- それを「OKR」というマネジメント手法を用いて企業/組織の指標に落とし込みます。
具体的な指標例を自らの活動に合わせて落とし込むことができるようになれば、あとは最上位の指標をどこから見つけてくるか…という話に帰着しますので、データ分析・活用を活性化するミッションを担う部門の方は活動を進めやすくなるでしょう。
SDGs(持続可能な開発目標)とは?
Sustainable Development Goalsの略で、2015年9月の国連サミットで策定された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2016~2030年までの国際目標です。国連サミットで採択されたアジェンダには次のように書かれております。(同じサミットの場で、安倍首相も日本として積極的に関わっていく旨を表明しています。)
「我々、国家元首、政府の長その他の代表は、国連が 70 周年を迎えるにあたり、2015 年9 月 25 日から 27 日までニューヨークの国連本部で会合し、今日、新たな地球規模の持続可能な開発目標を決定した。」「我々は、極端な貧困を含む、あらゆる形態と様相の貧困を撲滅することが最も大きな地球規模の課題であり、持続可能な開発のための不可欠な必要条件であると認識する。我々は、持続可能な開発を、経済、社会及び環境というその三つの側面において、バランスがとれ統合された形で達成することにコミットしている。」
※日本におけるSDGs取組
持続可能な開発目標(SDGs)推進本部
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/
JAPAN SDGs Action Platform
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/index.html
SDGsは17Goalから構成されています。
17Goalの内容は次の通りです。これらは包括的で互いに関連しており、発展途上国だけではなくすべての国に適用される普遍的な目標であるといえます。
- 貧困をなくそう No poverty
- 飢餓をゼロに Zero hunger
- すべての人に健康と福祉を Good health and well-being
- 質の高い教育をみんなに Quality education
- ジェンダー平等を実現しよう Gender equality
- 安全な水とトイレを世界中に Clean water and sanitation
- エネルギーをみんなに そしてクリーンに Affordable and clean energy
- 働きがいも経済成長も Decent work and economic growth
- 産業と技術革新の基盤をつくろう Industry, innovation, infrastructure
- 人や国の不平等をなくそう Reduced inequalities
- 住み続けられるまちづくりを Sustainable cities and communities
- つくる責任 つかう責任 Responsible consumption, production
- 気候変動に具体的な対策を Climate action
- 海の豊かさを守ろう Life below water
- 陸の豊かさも守ろう Life on land
- 平和と公正をすべての人に Peace, justice and strong institutions
- パートナーシップで目標を達成しよう Partnerships for the goals
17Goalは169のターゲットに分割され、それらのターゲットには(重複する12指標を除いて)232の指標が設定されています。ただし、指標は設定されていても、定義や算出方法に関する国際合意が得られていない場合があります。
※詳細:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/index.html
以下に、Goal7(エネルギーをみんなに そしてクリーンに)を例に挙げて、Goal、ターゲット及びグローバル指標を一部抜粋してみます。
Goal |
ターゲット |
グローバル指標名 |
7. |
7.1 |
7.1.1 |
7.1.2 |
||
7.2 |
7.2.1 |
|
7.3 |
7.3.1 |
例に挙げたターゲット/指標を見ると、次の点に気づきます。
- 1つのGoalを複数のターゲットに分割している。
・「安価かつ信頼できる」はターゲット7.1に、「持続可能な近代的」は7.2,と7.3に対応 - ターゲットの達成期限を明確にしている。
- ターゲット内容を更に掘り下げた上で、関連する指標を見出している。
・7.1「現代的エネルギー」として「電気」と「家屋の空気を汚さない燃料や技術」の2つを定義し、普遍的アクセスを測る指標として「人口比率」を採用
SDGsへの一般企業の取組
日本政府では、企業経営戦略へのSDGs組込みを推進しています。
「SDGsを無視した事業活動は企業の持続可能性を揺るがす『リスク』であり、SDGsに取り組むことで企業の存続基盤を強固なものにするとともに、いまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな『機会』が得られる」としています。
※SDGs経営/ESG投資研究会
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/sdgs_esg/index.html
企業におけるSDGsへの取組については、前述のJAPAN SDGs Action Platformに事例へのリンクが集められています。取組のパターン別に企業の事例を一部ご紹介致します。
企業名 |
取組内容(概略) |
① 元々あるサスティナビリティに対する考え方とSDGsの紐付を実施 |
|
SOMPO |
・経営・事業への取込ステップを公開し、自社で定めた重点課題とSDGsのGoalを紐付 |
トヨタ自動車 |
・自社の取組とSDGsのターゲットレベルを紐付け、指標自体は独自に設定 |
味の素 |
・マイケル・ポーター氏の提唱するCSV(共通価値の創造)を参考に、「ASV(Ajinomoto Group Shared Value)」を2014年に提唱、後にSDGsとGoalレベルでの関連を整理 |
② 既存事業活動とSDGsとの紐付を実施 |
|
ヤクルト |
・グループ全体での事業活動のプロセスを、SDGsのGoalに対応 |
以上の例を見てもわかる通り、ほとんどの企業ではSDGsのGoalやターゲットの一部に限定して、自社取組へ取り込んでいます。SDGsグローバル指標をそのまま一企業の目標達成を計測する指標として流用できるのは、電気・ガスや建築などの社会インフラ系企業に限られるようですので、企業/組織の指標を導出するにはもうひと手間必要です。
OKR(オーケーアール)とは何か?
Objective and Key Resultsの略で、定義としては次の通りです。
・ありたい姿/目的(Objective:O)を達成するためのツール- 活動の境界を定めて組織のミッションを具体化し、マイルストーン(例えば3ヵ月)を区切って、ありたい姿/目的(O)を定性的に表現する。
- そこに到達するまでの活動を分析/モデル化した上で、注目すべき指標を定め数値目標(KR)を野心的に設定する。
- OKRを全社に展開するために、下図のように上位OKRの数値目標(KR)と下位OKRのありたい姿/目的(O)を紐づける。
図:企業OKRと組織OKRの関係
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/set-goals-with-okrs/steps/introduction/
SDGsグローバル指標から企業の指標を設定する
ここではSDGsを基に、企業の目的達成を計測するための指標設定を試行してみます。
まず、SDGsグローバル指標を上位のKRに見立て、企業のありたい姿/目的(O)を紐づけます。
例えば、ある企業ではグループ全体の事業活動として「研究・開発、調達、生産、物流、販売」の5つを挙げ、そのうち物流においてSDGsのGoalと次のような対応をさせているとします。
事業活動 |
主な取り組み |
SDGs/Goalとの対応 |
物流 |
・省エネ、環境にも配慮した「物流」を行う |
7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに |
前述のGoal7のGoal/ターゲット/グローバル指標の対応付けの中に「7.2.1最終エネルギー消費量に占める再生可能エネルギー比率」という指標が含まれているため、このSDGsグローバル指標を上位KRに見立てた上で、当該企業のありたい姿/目的(O)に主な取り組みで挙げられている「省エネ、環境にも配慮した「物流」を行う」を設定し、紐づけることは問題無いでしょう。
次に、設定したありたい姿/目的(O)に至るまでの活動を分析し、数値目標(KR)を導きます。
物流を輸送手段で分類すると陸送/海運/空輸に分けることができ、陸送はトラックと鉄道が手段として一般的です。そのうち、鉄道/海運(船舶)/空輸(航空機)については一企業でエネルギー源を制御できる対象ではないため、トラックの動力源を再生可能エネルギーへ切り替えていくことが、「省エネ、環境にも配慮した「物流」を行う」上では現実的な取り組みと考えられます。
再生可能エネルギーのうち、太陽光・風力・水力・地熱などをトラックの動力源とすることは困難ですので、「省エネ、環境にも配慮した「物流」を行う」というありたい姿/目的(O)の達成度合いを、「バイオディーゼル燃料を動力源とするトラックによる物流比率を○%まで向上させる」という数値目標(KR)で計測することは、考え方としてはご納得頂けるかと思います。(バイオディーゼル燃料の使用比率をどこまで向上させることができるのかは、確保すべき物流量や調達可能なバイオディーゼルトラックの1台当たり積載量や台数に依存しますので、個々の企業によって設定すべき数値は異なります。)
図:SDGsターゲット7.2と企業OKRの関係
おわりに
「わが社のデータ活用に必要な指標を知りたい」という問いに対して、唯一の答えを用意することはできません。ある活動に対する標準的な指標を多数提示することはできても、その中から個々の企業が置かれている状況に適した指標を選択するのは、企業の意思決定・判断が必要です。
その一方で、企業は持続可能性(環境(Environment)/社会(Social)/ガバナンス(Governance))の観点から評価されることが多くなってきておりますので、持続可能な開発のための目標であるSDGsを上位の指標として見立てて、OKRというマネジメント手法により企業(や組織)の目的・数値目標に落とし込むプロセスを理解しておくことは、データ分析・活用を活性化させるための準備として有効ではないかと考えています。
今回の記事が、データ分析・活用に向けた指標設定へ取り組むきっかけになれば幸いです。